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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2191号・昭57年(ネ)2188号 判決

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実《省略》

「(目次)

〔申立〕

〔主張〕

第一 原判決事実摘示の訂正

第二 当審における主張

一 控訴人

1 窓前環境の総合指標としての日照の意義

2 建築基準法による日影規制と建築の社会的妥当性

3 第三ユニアスの建築と地域性、被害の受忍限度等

(一) 地域性

(二) 第三ユニアスによる日照阻害の程度

(三) 被控訴人らの被害回避可能性等の事情

(四) 第三ユニアスによる日照阻害の具体的評価

(五) 第三ユニアスの建築行為の態様

(六) 建築差止めによつて控訴人の被るべき損害

4 建築差止請求の根拠について

5 新耐震構造と本件建物部分建築の可否

6 目隠しについて

7 附帯控訴の理由(被控訴人らの主張8(二))に対する認否

二 被控訴人ら

1 本件控訴の不適法性

2 日影規制と建築の私法上の適法性

3 第三ユニアスと地域性

4 被害程度測定の基準

5 第三ユニアスの建築と社会的妥当性

(一) 盛土及び建築の脱法性、公法規制違反

(二) 本件指導要綱と控訴人の建築等の経緯

6 第三ユニアスによる日影被害等の実情

7 耐震基準との関係

8 附帯控訴(請求拡張)の理由

〔証拠〕」

理由

(目次)

第一  本件控訴の適法性について

第二  本案について

一当事者及び関係建物の位置関係

二第三ユニアスの規模、構造及びこれによる日影等

1  第三ユニアスの規模、構造、地盤面等

2  第三ユニアスが被控訴人ら居宅に及ぼす日影

3  第三ユニアス以外の建物による日影

4  複合日影の状況とその中で第三ユニアスのみの日影の占める割合

三本件(一)の土地の周辺の地域性と第三ユニアス

1  地域性

2  第三ユニアスの地域適合性等

四日影規制と私法上の日照保護との関係

五第三ユニアスと日影規制

1  本件(一)の土地の周辺における日影規制

2  本件(一)の建物の日影規制基準への適合性

六控訴人のした地盛りの評価

七被控訴人らに対する日照等の阻害の違法性

八圧迫感ないし天空享受の阻害

1  圧迫感

2  天空享受の阻害

九プライバシーの侵害

1  第三ユニアス

2  第五ユニアス及び山基ビル

一〇耐震構造基準の強化と本件建物部分建築の可否

一一被害の総合的な評価について

一二結論

第一  本件控訴の適法性について

被控訴人らは、本件控訴中建築差止請求に関する部分は信義則に反し、権利の濫用として不適法であると主張するので、まずこの点について判断を加える。

一本件記載によれば、控訴人は、本訴訟が原審に係属していた昭和五二年一一月一一日原審裁判所に対し本件(一)の土地の借地権の準共有持分及び本件建物部分を建築する権利を潮田幸三に譲渡したと主張して同人に本訴訟のうち本件建物部分の建築差止請求に関する部分を引き受けさせる旨の裁判を求め、昭和五三年一月二三日その旨の訴訟引受決定を得たこと、その後原判決において控訴人・潮田幸三間の右譲渡契約は虚偽仮装のものであると認定され、右訴訟引受決定は取り消され、訴訟引受申立は却下されたことが明らかである。

また、控訴人が当審において右譲渡契約は昭和五四年四月一八日に解除された旨主張していることは、本判決事実摘示のとおりである。

二右控訴人・潮田間の本件建物部分を建築する権利等の譲渡契約については、当裁判所も、これを虚偽仮装のものと判断する。その理由は次のとおりである。

(一)  前記訴訟引受決定に先立つて昭和五二年一二月一六日に行われた審尋において、潮田幸三が、(イ)自己の住所は練馬区西大泉である、(ロ)前記譲渡契約はチラシを見て買う気になり控訴人会社を訪れて契約の交渉に入つたが、細かい折衝は母のさくに任せた、(ハ)母さくは六〇歳をこえており、無職で不動産売買の経験はない、(ニ)売買代金三〇〇万円と内金二〇〇万円を控訴人に支払つたあとで、本件建物部分につき建築禁止仮処分が出ていることを知つたが、別段不満には思わなかつた、との趣旨の陳述をしており、これに対し同日行われた審尋において控訴人代表者山田基春は、売買代金額は二〇〇万円であつたと陳述し、控訴人の訴訟引受申立書に添付された借地権付建物売買契約書の写にも売買価格は二〇〇万円と記載されていることは、記録上明らかである。

(二)  <証拠>によると、潮田幸三は、控訴人会社に昭和四七年から勤務している門谷千賀の実弟で、門谷及び母さくらとともに右審尋当時武蔵野市吉祥寺南町三丁目一七番八号の控訴人代表者山田基春所有の一戸建住宅に居住しており、審尋の直後に山基ビル八〇一号室に転居したことが認められる。

(三)  <証拠>中には、山田は前記のような関係からかねてから潮田と懇意にしていたので門谷を介して本件建物部分に関する権利の買取りの話を潮田に持ちかけたものであり、右取引の話をした相手は裁判手続で建築差止請求が認められるはずがないという確信を山田と共有することのできる二、三人の者だけで、潮田はその一人であつた旨の記述が存する。

(四)  <証拠>によれば、本件建物部分の建築差止めに関する本件当事者間の仮処分異議訴訟について被控訴人らが潮田幸三に訴訟を引き受けさせることを申し立てたことに基づく審尋の際、潮田は「本件(一)の建物のうち三階の未完成部分を買い受けたが、今のところ具体的な建築計画はない。建築禁止の仮処分がされていることは知つていたが、この裁判が終れば建築工事に着手することができると思つた。自分としてはそこに住めるようになればそれでよいのであり、契約当時控訴人に支払つた買受代金二〇〇万円のほかに六〇〇万円か七〇〇万円出して建築工事をするつもりである。」との趣旨の陳述をしていることが認められる。

(五)  <証拠>には、潮田幸三は本件建物部分に関する権利を買い受ける際、早晩二〇〇〇万円位で売れるから随分安い買物だと言つていた旨の供述がある。

(六)  以上(一)ないし(五)の事実によれば、潮田幸三は、前記審尋に際して自己と控訴人との関係をことさらに隠そうとしていたことが明白であり、また、前記譲渡契約を結んだ動機や右契約の内容に関する同人の陳述は、あいまいかつ不正確であつて、およそ係争中に関する権利を相当多額の代金で買い受けた者の陳述としては極めて不自然というほかなく、また、右契約締結の経緯に関する山田基春の陳述とも矛盾している。これに加えて、控訴人の主張によれば控訴人・潮田間の前記譲渡契約は昭和五四年四月一八日に合意解除されたとのことであるが、その後の昭和五六年二月に原審の口頭弁論が終結されるまでの間に右契約解除に基づく承継参加等の手続はとられていないことをも併せて考えれば、前記譲渡契約は虚偽仮装のものと認めるのが相当である。

三右のような虚偽の主張をしていたずらに訴訟手続を煩雑にし、遅延させた控訴人の態度が誠実を欠くものであることは、いうまでもない。しかしながら、これにより本訴訟において現実にもたらされた害悪は必ずしも重大なものとはいえず、また、一個の訴訟手続内で、いつたん虚偽の主張をしたのちにこれと相反する主張をすることを許さないとすれば、当該訴訟についてみる限りかえつて司法の機能が阻害されることにもなる。これらの点を考慮すると、本件において控訴人が前記のような主張をし、いつたん訴訟引受決定を得たからといつて、右主張が第一審判決で否定されたのちの控訴審において右主張をひるがえし(控訴人は当審で潮田との間の権利譲渡契約の解除を主張しているが、この問題との関係においては実質上主張をひるがえしたのに異ならない。)自らが本件建物部分に関する権利の主体であるとの前提の下に抗争することを許さないのは、虚偽主張に対する判ママ裁として苛酷に過ぎ、妥当を欠くと思われる。被控訴人ら主張のような当事者双方の経済力等の事情はこの点の判断を左右するに足りる事情とはいい難い。

したがつて、建築差止請求に関する本件控訴を不適法であるとする被控訴人らの前記主張は、採用することができない。

第二  本案について

一当事者及び関係建物の位置関係

被控訴人浅倉を除くその余の被控訴人らが第三ユニアスの北、北東、北西側にそれぞれ隣接する土地上の建物に居住していること、被控訴人浅倉は第三ユニアスの北東側の下方荘二階に居住していたが昭和五五年三月に転居したこと、控訴人は本件(一)の土地上に本件(一)の建物を建築する計画を立て、昭和五一年七月一日東京都建築主事から建築確認を受けて建築に着手し、翌五二年一月までに右建物のうち本件建物部分以外の部分(すなわち現在の第三ユニアス)の建築を完成させ既に入居開始が開始されていること、更に、控訴人は昭和五二年四月から翌五三年四月ごろにかけて本件(二)の土地上に山基ビルを、また、昭和五二年一一月以降本件(三)の土地に第五ユニアスをそれぞれ建築したこと、右各建物の位置関係が別紙4、同5の第一、第二建物配置図記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

右第一建物配置図に示されているように、本件(一)の土地と被控訴人今溝両名の居宅の敷地との境界線から今溝両名の居宅の南側までの距離は4.597メートル(東寄り)ないし3.572メートル(西寄り)である。また、第三ユニアスの敷地の北西側の角から被控訴人伊藤博則の居宅の東南側の角までの距離は約2.1メートルであり、同被控訴人の居宅はその敷地の南側境界線から六一ないし七三センチメートルの距離にある。下方荘の西側の壁は、同荘の敷地と本件(一)の土地との境界線から約四〇センチメートルの距離にあり、第三ユニアスも右境界線から約四〇センチメートルの距離にある。

二第三ユニアスの規模、構造及びこれによる日影等

1第三ユニアスの規模、構造、地盤面等

<証拠>によれば、次の各事実が認められる。

(一) 本件(一)の土地及びこれに続く被控訴人今溝両名の居宅の敷地は、元来水道道路から北方へ向かつてゆるやかな下り勾配をなしており、控訴人が本件(一)の土地を取得する前右土地に居住していた荒木ちよ野は、そのうち水道道路寄りの奥行き三間位の範囲に右道路と同じ高さに地盛りをしたうえ、右部分に二階家を、地盛りをしない北寄りの部分に平家を建てた。その結果、地盛りをした部分としない部分との間には二、三尺の段差が生じていた。

(二) 控訴人は、第三ユニアスの建築を始めるにあたつて本件(一)の土地全体が水道道路と同じ高さになるように地盛りをした。これによつて本件(一)の土地と北隣りの被控訴人今溝両名居宅の敷地との間に高低差を生じたが、その差は、両土地が接する付近で六五センチメートルないし76.5センチメートル前後、今溝両名居宅の北端付近と本件(一)の土地とを比較すると約81.5センチメートルである。

(三) 控訴人は、右地盛りをしたのち間もなく第三ユニアスの建築に着手し、地階工事のため本件(一)の土地を掘り下げたので、右盛土は殆ど残存しなくなつた。

(四) 本件(一)の建物は、地階及び地上三階建で、各階の床面積は134.860平方メートル(三階)ないし160.105平方メートル(一階)、延べ床面積は607.055平方メートル、前記地盛り後の地盤面からの高さは9.850メートルであり、地階の床面は右地盤面より一メートル低く、一階の床面は右地盤面より1.8メートル高いので、地階はいわば半地下ともいうべきものである。地階は三戸の店舗として、一階ないし三階はそれぞれ六戸、五戸、四戸の居宅として設計され、建物への出入口は水道道路に面した南側と幅員約2.1メートルの私道に面した西側とにある。

2第三ユニアスが被控訴人ら居宅に及ぼす日影

(一) <証拠>によれば、被控訴人今溝両名の居宅は主たる開口部を南側に有する二階建建物である(なお、右建物はそのほか東側、西側にも開口部を有するが、東側の開口部はすぐ東側に近接して飯田宅が建つているため日照を得られず、西側一階開口部もその西南に被控訴人伊藤博則らの居宅等があるため多くの日照を望めない。)こと、被控訴人伊藤博則、同伊藤タツエの居宅は、南北(正確には東北東から南南西)に細長い一棟の二階建建物を南北に区分し、南側に伊藤博則、北側に伊藤タツエが居住しているが、伊藤博則の居宅は、南側一階の開口部は小さく、主として南側二階と東側の開口部からの日照を享受する構造の建物であり、伊藤タツエの住居は、前記のような建物の位置関係から、主に東側からの日照を享受する建物であること、被控訴人坂本は下方荘の階下北側の居室を占有しており、被控訴人浅倉はかつて下方荘の二階北側の居室を占有していたのであるが、右各居室は西側には一ないし二個の窓を有するにすぎず、しかも右各窓はその大部分を目隠しで塞がれていて、主たる開口部は東側に存することが認められる。

(二) 本件(一)の建物ないし現在の第三ユニアスが被控訴人今溝両名、同伊藤博則、同伊藤タツエの各居宅に対して及ぼす日影の程度を視角的に最も明瞭に示すものは、右被控訴人らの居宅の立面図上右日影がどのように現われるかであるから、これを中心として日影の程度を検討する。いわゆる日影立面図としては、甲第五一号証、第七九号証の一ないし一〇、第八〇号証の一ないし一〇、乙第七五ないし第七七号証、第九一ないし第九三号証があり、これら図面を比較するとかなり相違する点もあるが、その中で、当審証人伊藤隆造の証言よつて成立の認められる甲第七九号証の一ないし一〇、第八〇号証の一ないし一〇は、武蔵野市の作成にかかり、相手方当事者たる控訴人もその主張の根拠として引用するものであつて、最も信用性の高いものと考えられるので(但し、現在の第三ユニアスの屋上から被控訴人らの居宅を撮影した写真であることにつき争いがなく、当審証人福田博の証言により昭和五七年一二月二三日に撮影されたものと認められる乙第一〇一号証に現われた日影には右甲第七九号証、第八〇号証の日影図のものと矛盾するように見えるものもあるが、右写真の撮影された時刻が右日影図と同様真太陽時によつているのかどうか明らかでないので、右写真も右日影図の正確性を疑わせるに足りるものとはいい難い。)、これに基づいて前記各被控訴人ら居宅開口部の日影の状況(以下、いずれも冬至における午前八時から午後四時までの日影を考察の対象とする。)を逐次検討すると、

(1) 被控訴人今溝両名、同伊藤博則、同伊藤タツエの各居宅が本件(一)の建物(すなわち原設計どおりに建てられた建物)によつて受ける日影の状況は、次のとおりである。

(イ) 午前八時(真太陽時すなわち太陽の南中時を正午とした時刻による。以下においても同じ。)現在、被控訴人今溝両名方及び被控訴人伊藤タツエ方はいずれも日影を受けず、被控訴人伊藤博則方の南側開口部は全部日影内となるが東側開口部は日影を受けない。

(ロ) 午前九時現在、被控訴人今溝両名方及び被控訴人伊藤タツエ方はいずれも日影を受けず、被控訴人伊藤博則方は南側の全部と東側二階開口部の約二分の一及び一階開口部の約三分の一が日影内にある。

(ハ) 午前一〇時現在、被控訴人今溝両名方は全く、被控訴人伊藤タツエ方も殆ど日影を受けず、被控訴人伊藤博則方は南側全部と東側一階開口部全部及び二階開口部の約四分の三が日影内にある。

(ニ) 午前一一時現在、被控訴人今溝両名方では南側一階開口部の約四分の一が日影内にあり、被控訴人伊藤博則方では南側開口部全部と東側一階開口部全部及び二階開口部の五分の四以上が日影内にある。被控訴人伊藤タツエ方では東側一階開口部のほぼ半分が日影内にある。

(ホ) 正午現在、被控訴人今溝両名方では一階南側開口部の三分の二以上が日影内にあり、被控訴人伊藤博則方の南側及び東側の開口部は、南側二階開口部の約五分の二を除いてすべて日影内にあり、被控訴人伊藤タツエ方では東側一階開口部の三分の二以上が日影内にある。

(ヘ) 午後一時現在、被控訴人今溝両名方では南側一階開口部の全部と二階開口部の約二分の一が日影内にあるが、被控訴人伊藤博則、同伊藤タツエ方はいずれも日影を受けない。

(ト) 午後二時現在、被控訴人今溝両名方南側は二階の開口部の約五分の一を除きすべて日影内にあるが、被控訴人伊藤博則、同伊藤タツエ方はいずれも日影を受けない。

(チ) 午後三時現在、被控訴人今溝両名方の南側は全部日影内にあり、被控訴人伊藤博則、同伊藤タツエ方はいずれも日影を受けない。

(リ) 午後四時現在、被控訴人今溝両名方の南側は一階開口部のごく一部分(約一〇分の一)を除きすべて日影内にあり、被控訴人伊藤博則、同伊藤タツエ方はいずれも日影を受けない。

(ヌ) 以上を総合すると、被控訴人今溝両名方南側では正午ごろから一階開口部の大半が本件(一)の建物の日影に入り、午後一時には一階開口部の全部と二階開口部の半ば以上が日影内に入り、以後午後四時まで殆ど日照を得ることができない。もつとも、前出甲第四六号証、第七九号証の一、乙第一〇一号証及び原審における検証の結果によれば、右のほか午後二時ごろ二階西側開口部は日影を受けないが、右時間帯における日照と右開口部の角度の関係からいつて屋内への日光の入射量は小さく、これによつて受ける利益は大きいとはいえない。また、被控訴人伊藤博則方では、南側は正午前後まで殆ど日照を得られず、東側も午前一〇時ごろから正午ごろまでは僅かの日照しか得られないが、午後一時以後は南側も東側もなんら日影を受けない。被控訴人伊藤タツエ方東側は、午前一一時ごろから正午ごろにかけて一階がかなりの日影を受けるが、そのほかの時間帯では殆ど日影の影響はない(もつとも、伊藤博則方についても伊藤タツエ方についても、午後一時ごろ以降は右東側開口部自体が自己日影により日照を受けることのできない位置にある。)。

(2) 同じく冬至の各時刻において、前記被控訴人らの各居宅が現在の第三ユニアスの建物(すなわち三階の北側二戸分が除かれた建物)によつて受ける日影の状況は、次のとおりである。

(イ) 午前八時現在、被控訴人今溝両名方、被控訴人伊藤タツエ方はいずれも日影を受けず、被控訴人伊藤博則方では南側だけが全部日影内にある。

(ロ) 午前九時現在、被控訴人今溝両名方、被控訴人伊藤タツエ方はいずれも日影を受けず、被控訴人伊藤博則方の南側全部と東側一階開口部の約三分の一及び二階開口部の約四分の一が日影内にある。

(ハ) 午前一〇時現在、被控訴人今溝両名方、被控訴人伊藤タツエ方はいずれも日影を受けず、被控訴人伊藤博則方の南側全部と東側一階開口部の殆ど全部及び二階開口部の約四分の一が日影内にある。

(ニ) 午前一一時現在、被控訴人今溝両名方南側では一階開口部の約四分の一が日影内にあり、被控訴人伊藤博則方では南側一階開口部の全部、二階開口部の約五分の四、東側一階開口部の殆ど全部、二階開口部の約四分の一が日影内にある。被控訴人伊藤タツエ方の東側開口部は日影を受けない。

(ホ) 正午現在、被控訴人今溝両名方では南側一階開口部の三分の二以上が日影内にあり、被控訴人伊藤博則方では南側開口部は殆ど日影を受けなくなり、東側の一階開口部の全部と二階開口部の約四分の一が日影内にある。被控訴人伊藤タツエ方東側では一階開口部が僅かながら日影を受ける。

(ヘ) 午後一時現在、被控訴人今溝両名方南側では一階開口部は全部日影内にあり、二階開口部は日影を受けない。被控訴人伊藤博則方、同伊藤タツエ方はいずれも日影を受けない。

(ト) 午後二時現在、被控訴人今溝両名方南側では一階開口部の全部と二階開口部の約四分の一が日影内にあり、被控訴人伊藤博則方、同伊藤タツエ方はいずれも日影を受けない。

(チ) 午後三時現在、被控訴人今溝両名方南側では一階開口部の全部と二階開口部の殆ど全部が日影内にあり、被控訴人伊藤博則方、被控訴人伊藤タツエ方はいずれも日影を受けない。

(リ) 午後四時現在、被控訴人今溝両名方南側は一階開口部のうち約一〇分の一を除きすべて日影内にある。被控訴人伊藤博則方、同伊藤タツエ方は日影を受けない。

(ヌ) 以上を総合すると、被控訴人今溝両名南側では、午前一一時ごろから正午過ぎにかけて一階開口部に日影が拡がつて行き、午後一時以降一階では殆ど日照を得ることができず、また、二階開口部は午後二時ごろから次第に日影が拡がり、午後三時以降は殆ど日照を得られない。被控訴人伊藤博則方では、南側は午前一一時ごろまで殆ど日照を得られないが、正午ごろからは日影を受けなくなり、東側は午前一〇時ごろ以降一階開口部の殆ど全部と二階開口部の一部が日影内にあるが、午後一時ごろから日影を受けなくなる。被控訴人伊藤タツエ方は終日殆ど日影を受けない(もつとも、伊藤博則方、伊藤タツエ方の東側開口部が午後一時ごろ以降自己日影により日照を受けられないことは前記のとおり。)。

3 (1)の原設計による建物の日影と(2)の現在の建物の日影とを比較すると、

(イ) 被控訴人今溝両名方では、二階開口部の受ける午後一時ごろから午後二時ごろまでの日影の程度にかなりの差があり、原設計の建物の午後一時ごろ及び午後二時ごろの日影の程度は、それぞれ現在の建物の午後二時ごろ及び午後三時ごろの日影の程度に近いから、前者の方が日影の時間が約一時間長いとみることができるが、一階開口部の受ける日影の程度については余り大きな差はない。

(ロ) 被控訴人伊藤博則方では午前一〇時ごろから正午ごろにかけて東側二階開口部の受ける日影にかなりの差が存する(もつとも、正午前後では、日照の方向と開口部の方向との関係からいつて、建物内へ入射しうる日光の量はいずれにしろ余り多くはない。)ほか、正午ごろの南側開口部の日影にも差がある。そのほかの点では、原設計の建物でも現在の建物でも余り違いはない。

(ハ) 被控訴人伊藤タツエ方では、午前一一時ごろから正午ごろにかけての一階東側の日影に差を生ずる(しかし、被控訴人伊藤博則方について述べたのと同様、日照の方向と開口部の方向との関係からいつて、正午前後における実質上の差は余り大きくない。)。そのほかの点では、原設計の建物でも現在の建物でも違いは殆どない。

(三) 次に、第三ユニアスが被控訴人坂本、同浅倉の居室のある下方荘に及ぼす状況を見ると、前出甲第七九号証の一、第八〇号証の一、原審坂井資弘の証言により被控訴人らの居宅付近の模型で日影の状況を実験した写真と認められる乙第四四号証の二、第四五号証の一ないし三、第四六号証の一ないし三及び原審における検証の結果によれば、前記被控訴人らの居室の西側開口部に対する午後の日照は本件(一)の建物(現在の第三ユニアスでも同じ)によつて完全に遮られることが認められる。

3第三ユニアス以外の建物による日影

前記被控訴人らの居宅は、本件(一)の建物ないし現在の第三ユニアス以外の建物による日影をも受けている。そのうち被控訴人今溝両名方の東側及び西側一階に対するものは既に述べたので、その余の日影の状況をみると、

(一) 被控訴人今溝両名方南側

<証拠>によれば、被控訴人今溝両名方の南側は、午前八時及び午前九時現在には、一、二階開口部の殆ど全部が飯田宅、下方荘又は大洋ビルの日影内にあり、午前一〇時現在には一階開口部の殆ど全部と二階開口部の約二分の一が右建物の日影内にあり、午前一一時現在には一階開口部の約二分の一と二階開口部のごく一部分が飯田宅又は下方荘の日影内にあり、正午現在には一階開口部のごく一部分が下方荘の日影内にあり、午後二時現在には一階開口部の大部分と二階開口部の約二分の一が山基ビルの日影内にあり、午後四時現在には一階開口部の約五分の二と二階開口部の約四分の一が原宅の日影内にあり、そのほか後記のとおり原商店の跡に建つた原ビルの日影も程度は不明であるが、一、二階開口部に及ぶことが認められる。

(二) 被控訴人伊藤博則方南側及び東側

<証拠>によれば、被控訴人伊藤博則方南側は、午前八時現在には一、二階開口部とも大洋ビルの日影内にあり、午前九時現在には一階開口部と二階開口部のごく一部が同ビルの日影内にあること、正午ごろから次第に一、二階開口部とも原宅の日影を受け始め、午後一時には一階の約二分の一と二階の約五分の二が、午後二時以降は全部が原宅の日影内に入ること、午後一時には原ビルの日影も一階開口部全体に及ぶこと、同被控訴人方東側は、午前八時現在全面的に大洋ビル、飯田宅又は下方荘の日影内にあり、午前九時現在一階開口部は全部大洋ビル又は下方荘の日影内にあることがそれぞれ認められる。

(三) 被控訴人伊藤タツエ方東側

<証拠>によれば、被控訴人伊藤タツエ方東側は、午前八時現在には一階開口部の全部と二階開口部の大部分が今溝宅、飯田宅又は大洋ビルの日影内にあり、午前九時現在には一階開口部全部が今溝宅、飯田宅又は大洋ビルの日影内にあることが認められる。

(四) 被控訴人坂本、同浅倉方東側

<証拠>によれば、下方荘の被控訴人坂本、同浅倉の居室の東側開口部は、午前一一時ごろまでは大洋ビルの日影内にあり、正午過ぎからは自己日影のために日照を得られなくなる。西側開口部は、第三ユニアスがなければ午後二時前ごろから日照を得られるが、午後三時ごろには山基ビルの日影に入る。

4複合日影の状況とその中で第三ユニアスのみによる日影の占める割合

以上認定したところに基づいて、被控訴人らの各居宅が受ける複合日影の状況と、その中で本件(一)の建物ないし現在の第三ユニアスのみが被控訴人らの居宅に与える日影の程度を総括する。但し、本件(一)の建物(現在の第三ユニアス)以外の建物の日影についてはその程度、ことに時間的推移に伴うその変化の状況が必ずしも十分に明らかではないが、上記各認定事実に加えてその認定の資料とした各日影図や各建物の平面図をも参酌すると、そのおおよその状況は次のようなものである。なお、日照時間、日影時間は、同じ階に方角を異にする開口部がある場合には、これを総合的に見て、いずれか一方の側の開口部の過半が日照を受けているかどうかを基準とする。

(一) 被控訴人今溝両名方

(イ) 南側一階開口部

本件(一)の建物と他の建物との複合日影の結果、午前一一時ごろから正午前ごろまでは開口部の約二分の一に日照があるが、それ以外の時間帯には開口部の全部又は過半が日影内にある(日影時間七時間)。そのうち専ら本件(一)の建物によつて日影が生じているのは、正午ごろから午後四時までの四時間のうち午後二時前後と午後四時前後とを除いた三時間位である。

現在の第三ユニアスと他の建物との複合日影の場合も、右の日影の状況と大差はない。

(ロ) 南側二階開口部

本件(一)の建物と他の建物との複合日影の結果、午前一〇時ごろから午後一時ごろまでは開口部の過半に日照があり、日影時間は約五時間である。そのうち専ら本件(一)の建物により日影が生じているのは午後一時過ぎから四時ごろまでの約三時間である。

現在の第三ユニアスと他の建物との複合日影の場合には、専ら右第三ユニアスによつて日影が生じているのは午後三時前から四時ごろまでの一時間強である。

(二) 被控訴人伊藤博則方

(イ) 南側及び東側一階開口部

本件(一)の建物と他の建物との複合日影の結果、南側開口部の日照時間は殆ど皆無であり、そのうち専ら本件(一)の建物によつて日影が生じているのは午前一〇時前から正午過ぎまでの約三時間である。また、東側開口部の日照時間は皆無に近く、日影時間は約五時間(午後一時以降は自己日影)、そのうち専ら本件(一)の建物によつて日影が生じているのは午前一〇時前から正午過ぎまでの約三時間である。結局、南側と東側を合わせて見ても、一階は終日殆ど日照がなく、約三時間は専ら本件(一)の建物により日影が生じている。

現在の第三ユニアスと他の建物との複合日影の場合には、南側で正午前後に日影が得られる点において差異があり、専ら右第三ユニアスによつて日影が生じているのは午前一〇時前から一一時過ぎまでの約二時間である。

(ロ) 南側及び東側二階開口部

本件(一)の建物と他の建物との複合日影の結果、南側開口部での日照時間は正午過ぎから午後一時ごろまでの約一時間、日影時間は約七時間であり、そのうち専ら本件(一)の建物によつて日影が生じているのは午前九時前から正午ごろまでの三時間強である。また、東側開口部の日照時間は午前九時ごろを除いて殆どなく、日影時間は約五時間(午後一時以降は自己日影)、そのうち専ら本件(一)の建物によつて日影が生じているのは午前九時過ぎから正午過ぎまでの約三時間である。南側と東側とを合わせて考えた場合、日照時間は約一時間、日影時間は約七時間であり、そのうち専ら本件(一)の建物によつて日影が生じているのは午前九時過ぎから正午ごろまでの約三時間である。

現在の第三ユニアスと他の建物との複合日影の場合、東側で午前九時ごろから正午過ぎまで約三時間の日照が得られる結果、日照時間は約四時間となり、専ら右第三ユニアスによつて日影が生じている時間は殆どない。

(三) 被控訴人伊藤タツエ方

さきに認定したとおり、本件(一)の建物によつて右被控訴人方に日影を生ずる時間は、東側一階開口部につき一時間程度であり、同二階開口部については殆ど皆無であり、また、現在の第三ユニアスによる日影は右よりも更に軽微であるから、詳細な検討を省略する。

(四) 被控訴人坂本、同浅倉方

本件(一)の建物と他の建物との複合日影の結果、東側開口部では正午前後に一時間程度の日照があるのみで、日影時間は約四時間(午後一時以降は自己日影)であり、本件(一)の建物による日影はない。西側開口部は日照時間皆無で日影時間は約二時間(午後二時近くまでは自己日影)、そのうち専ら本件(一)の建物によつて日影が生じているのは約一時間である。

現在の第三ユニアスと他の建物による日影の状況も、以上と変らない。

三本件(一)の土地の周辺の地域性と第三ユニアス

1地域性

本件(一)の土地が水道道路の北側に面し、都市計画上は、近隣商業地域で容積率三〇〇パーセントの第二種高度地区に指定されている地域に属していることは当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第一七四号証によれば、建設省都市計画局長の通達(昭和四七年四月二八日建設省都計発四二号)において、近隣商業地域のうち容積率三〇〇パーセントと定めるのは、商業地域に隣接する地区、鉄道駅の周辺の地区等で土地の高度利用を図るべきものについてであるとされており、また、<証拠>によれば、本件(一)の土地は国電吉祥寺駅から約三五〇メートルの距離にあり、その建ぺい率は八〇パーセントであることが認められる。

そこで、本件(一)の土地の周辺が日照等の居住環境の観点からいつて事実上どのような状況にある地域かを検討すると、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 本件(一)の建物の建築工事が始まつた昭和五一年九月当時、本件(一)の土地をほぼ中心として水道道路(幅員14.45メートル)と末広通り(幅員7.28メートル)との間に東西に約一三〇メートルにわたつている吉祥寺南町二丁目一三番のブロック(以下「本件ブロック」という。)内では、本件(一)の土地の東隣りの下方荘の東側に水道道路に面して三階建の大洋ビル、その北隣りに三階建の浜野ビルが建つており、また、右ブロックの北側の区域には、本件(一)の土地の北西方五〇ないし六〇メートルの所に末広通りを隔てて四階建のおざわ・いまむらビルと三階建の三井クリーニングビル、その北側に六階建のマンション武蔵野があり、他方、本件ブロックから水道道路を隔てた南側のブロックには、本件(一)の土地の東南方一五メートル位の所に七階建の共同ビル(現在の名称は吉祥寺パークロイヤルマンション)、その東隣りのブロックに一一階建のニュー井之頭マンション等、その西隣りのブロックには三階建の国際自動車営業所があつた。以上のほかは一、二階の低層建物であり、本件ブロック内にあつた十三、四棟の建物のうち三階建以上のものは前記大洋ビル、浜野ビルだけで、建物の用途においては住宅専用の建物が六割前後を占めていた。水道道路の両側は道路沿いにそれぞれ約二〇メートルの幅で近隣商業地域に指定され、本件ブロックもその中に含まれているが、それより奥は、吉祥寺駅寄りの前記おざわ・いまむらビル等のある一角より西は別として、第一種住居専用地域に指定され、一、二階建の低層住宅が建ち並んでいた。

(2) その後、昭和五三年二月ごろ八階建の山基ビル(現在の名称は山基マンション)が水道道路を隔てて本件(一)の土地のほぼ真向いに当たる本件(二)の土地に、同年六月ごろ四階建の第五ユニアスが本件(一)の土地の西北方数メートルの本件(三)の土地に、昭和五五年一一月ごろ三階建の原ビルが本件(一)の土地の西隣りに、昭和五七年三月ごろ四階建のサンパレス吉祥寺が原ビルの西側の本件(一)の土地から三〇メートル余りの所に、同年四月ごろ五階建のオリンピック・マンションが本件(一)の土地の東方約六〇メートルの末広通り南側沿いの土地にそれぞれ新築された(以上のうち山基ビル、第五ユニアスが建築されたことについては当事者間に争いがない。)ほか、吉祥寺駅から水道道路沿いに東方約一キロメートルの前記近隣商業地域には、右道路の北側では三ないし五階建の、南側では三ないし一〇階建の中、高層建物がかなり見られるようになつた。但し、前記の昭和五一年当時の地域指定はその後も殆ど変更されておらず、第一種住居専用地域とされた地域の状況は昭和五一年当時と余り変りがない。

(3) 現在、水道道路の南側沿い、すなわち本件(二)の土地を含む一帯は、吉祥寺駅から本件ブロックの向かい側を経て更にその東隣りのブロックに至るまで、中、高層の事務所や共同住宅が大部分を占めている。また、水道道路の北側沿い、すなわち本件(一)の土地を含む一帯は、吉祥寺駅にごく近い部分には七、八階の高層建築も二、三見られるが、そのほかは本件ブロックに至るまで概して平家又は二階建の建物と三、四階建の建物とが混在し、その殆どが商店又は共同住宅で一戸建の住宅は殆ど見られない。なお、本件ブロックの東隣りのブロックの右道路沿いは二階建の商店が連なつているが、その東に行くと再び中高層建物が見られる。次に末広通りの両側の状況をみると、右道路の南側沿い、すなわち本件(三)の土地や被控訴人今溝両名、同伊藤タツエの各居宅の敷地を含む一帯は、吉祥寺駅に最も近い商業地域に指定された部分に数棟の中高層建物が並んでいるほかは、二階建の住宅と商店とが主体をなし、その中に中層の共同住宅や事務所が点在しており、このような状況は本件ブロックでもその東方のブロックでも変らない。また、末広通りの北側沿いは、吉祥寺駅から本件ブロックの北西方の第二種住居専用地域に指定された区域の東端のあたりまでは中層の建物と二階建の建物とが混在する商店街であるが、それより東の第一種住居専用地域に指定された部分は、おおむね低層の住宅と商店が混在する区域である。

(4) ブロックごとに昭和五七年四月ごろの土地利用の状況をみると、まず、本件ブロックにおいては、これを構成している一九区画の土地のうち、専ら住居敷地として利用されているものは、被控訴人今溝両名居宅の敷地を含め四区画のみであり、また、右一九区画のうち六区画に三階建以上の建物(第三ユニアス、第五ユニアスを含む。)が建ち、一一区画には一階又は二階建の建物が建ち、二区画は建物が建つていない。

次に本件ブロックの東隣りのブロック(吉祥寺南町二丁目二〇番)においては、これを構成する一五区画の土地のうち専ら住居敷地として使用されているのは一区画のみであり、また右一五区画のうち三区画に三階建以上の建物が建ち、一一区画に二階建の建物が建ち、一区画には建物が建つていない。

本件ブロックの西隣りのブロック(吉祥寺南町二丁目七番)においては、これを構成する一二区画の土地のうち専ら住居敷地として使用されているのは三区画のみであり、また、右一二区画のうち一区画に三階建の建物が建ち、九区画に二階建の建物が建ち、二区画には建物が建つていない。

2第三ユニアスの地域適合性等

以上認定したところから本件(一)の建物がその周辺地域の地域性に適合するかどうかを判断することになるが、右判断にあたつては、第一に本件ブロックの状況に着目すべきことは言うまでもないにせよ、そのほかその近隣のブロック、殊に本件ブロックと同様近隣商業地域に指定されている区域の状況を参考とすべきである。それとともに、かかる区域の中でも水道道路南側沿いの区域は、右道路があることによつて区域内の建物が他に及ぼす日影等の影響が軽減される結果、その高層化が他に比べて行われ易いことを考慮に入れる必要がある(他方、被控訴人らは、本件ブロックの北側に末広通りを隔てて第一種住居専用地域が存在することをも考慮すべきだと主張するが、冬至において本件(一)の建物の日影そのものが右地域に及ぶのが午後二時過ぎからの比較的短い時間帯に限られていることは、成立に争いのない甲第二七号証によつて明らかであるから、右第一種住居専用地域の存在することは、地域性を考察するうえで余り大きな意味を有するものと考えるべきではない。)。結局、水道道路の北側で近隣商業地域に指定されている部分を中心に考察を加えるべきである。

右のような観点からすると、本件(一)の土地の周辺地域は都市計画上近隣商業地域の中でも特に土地の高度利用を図ることを予定して容積率三〇〇パーセントと定められた地区であること、水道道路という幹線道路に沿つた地帯であり、その周辺が商業地域に指定されている吉祥寺駅からも程遠くない場所であること、第三ユニアスの建築が開始された昭和五一年当時既にある程度の中層建物が存在しており、中層化の傾向は、控訴人の建築した第三ユニアス、第五ユニアス、山基ビルを除外して考えても、その後も徐々に進行していて、三、四階程度の建物はこの地域ではありふれた存在となつて来ていること、建物の用途の点からいつても、この地域では一戸建の住居専用の建物はきわめて少なく、商店が多く、近隣商業地域とされるのにふさわしい実態を備えていることなどからいつて、第三ユニアスのような三、四階程度の店舗兼共同住宅を建築することそれ自体は、地域の性格に適合した土地利用であるといわなければならない。もつとも、地域内の建物を数えれば一階又は二階建の建物の数の方が三階以上の建物の数よりもはるかに多いが、問題は、どのような建物が最も多いかではなく、どのような建物が当該地域の一般的状況と調和的であるといえるかにあるのであるから、右事実も前記判断を左右するに足りない。

なお、第五ユニアス及び山基ビルの地域適合性についても以上に論じたところに準じて考えることができるが、これら建物についてはそれが被控訴人ら居宅に及ぼす日照の阻害の程度が前記のとおり軽微であり、また、通風、採光の阻害、圧迫感、プライバシーの侵害の程度も後記のとおり違法とするに足りないので、その地域適合性の点について詳論する必要を認めない。

四日影規制と私法上の日照保護との関係

日照保護のため私法上の差止請求権の根拠をいずれに求めるべきかは議論の存するところであるが、その点は一応措くとして、日影によつて生ずる被害の程度が社会通念に照らして社会生活上一般に受忍すべき限度を超え、かつ、それが、当該地域について一般に相当とされる態様とは異なつた態様の建築がされたことによつてもたらされたものである場合には、当該建築行為は違法とされ、その結果、これに対する差止請求権又は損害賠償請求権が発生する可能性があるものというべきである。

ところで、昭和五一年法律八三号(昭和五二年一一月一一日施行)によつて新設された建基法五六条の二は、建築物がその敷地の外に投ずる日影を地域の性格に応じ一定の限度内にとどめるように規制しているが、<証拠>によれば、右規制は、建築物による近隣の日影被害を地域の性格に照らして一般に合理的と思われる限度内にとどめ、ひいては市街地環境全体の整備を図ることを目的とし、具体的には、立案当時大都市で住民の約三分の二が享受していた程度の日照を確保することを狙いとして立案され、立案にあたつては各地方自治体が従来行つて来た行政指導等の内容をも参酌したものであること、後記のように改正法に基づいて具体的な規制内容を定める東京都日影条例が制定される際には各自治体や住民の意見も聴取されていることが認められ、このような規制が実施されることによつて、特定の建築物によつて生ずる日影被害の程度ばかりでなく、建築物の敷地内での位置、形状等もおのずから一定の態様内にとどまることが要求されることになる。もつとも、右の規制の方法は、被害者側の日照被害の程度ではなく、加害者側が生ぜしめる日影の程度を直接の基準としているため、複合日影によつて被害が生じているような場合には、被害者の保護において十分ではないのではないかという問題はあるが、複合日影のような場合、これについて公平妥当な規制を加えることには法技術的に相当の困難を伴うことが予想され、また、加害者の行為の態様自体とこれによつて生ずる結果とが行為の私法上の違法性を判断する基本的な要素であることは前述のとおりであるから、右規制の基本となつている考え方は、私法上当該建築が違法性を帯有するか否かの判断に対しても親近性を有するものというべきであり、具体的な建築行為が右規制施行前に行われたと否とを問わず、建築が右規制に適合するものであるか否かは、その私法上の違法性を判断するうえで考慮さるべき重要な要素である。むしろ、右規制が前記のように立案当時の大都市における日照の一般的な享受状況に基づいて立案されたものであることからすれば、規制の前提とされている地域指定が地域の実情に合致しないとか、建築主の側につき権利濫用あるいは信義則違反と目すべき事実が存するとかの特段の事情が認められない限り、右規制に適合する建築はその生ずる日影に関し私法上も違法性を帯びることはないものと解すべきであるのかも知れない。しかし、右規制の内容が私法上有すべき意味を確定することは、多くの具体的な事例において被害の実情等をも参酌しつつその日照保護上の意義を検証することを通じてこれを行うのが望ましいと考えられるので、さしあたつては、右のように違法性判断上の重要な指標と考えられる建築法上の日影規制に本件(一)の建物が適合するかどうかを検討し、そのうえで、被控訴人らの被るべき被害そのものの評価、右被害を発生せしめている諸因子の分析を経たうえで右違法性の有無を判断することとする。

五第三ユニアスと日影規制

1本件(一)の土地の周辺における日影規制

前記建基法五六条の二の規定によると、近隣商業地域内で地方公共団体の条例で指定する区域内(北海道の区域内を除く。)にある高さが一〇メートルを超える建築物は、原則として、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までの間において、平均地盤面から四メートルの高さの水平面に、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超え一〇メートルまでの範囲において(イ)四時間又は(ロ)五時間以上、一〇メートルを超える範囲において(イ)2.5時間又は(ロ)三時間以上日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならないものとされており、具体的な地域につき右(イ)、(ロ)のいずれの規制値によるかは地方公共団体が条例で指定することになつている。

そして、<証拠>によれば、東京都日影条例において、近隣商業地域で、かつ、容積率三〇〇パーセントと指定された第二種高度地区である本件(一)の土地の周辺地域の日影時間の規制値は、右の(イ)によるものとされていることが認められる。

2本件(一)の建物の日影規制基準への適合性

日影規制を定めた前記建基法の改正法は、同法の附則によれば、同法施行後に建築確認を受ける建築物についてのみ適用されるから(後述の地盛りとの関係で若干問題のある建物の高さの要件の点を別にしても)、本件(一)の建物にはその適用はない。しかし、前記のように右規制の内容が建築物の生ずる日影の私法上の違法性を判断する上での重要な指標であるとすれば、実際上右規制の対象とされると否とにかかわりなく、建築物が実質的に右規制に適合するかどうかが重要な意味を有するので、以下この点を検討する。

前記のとおり本件(一)の土地には建築に先立つて地盛りがされたので、日影規制の基準として地盛り後の地盤面によることの可否がまず問題になるが、一般に、建築を行うにあたつて傾斜や凹凸のある土地を地盛り又は掘削によつて平坦にするのは通常行われているところであり、また、本件(一)の土地は水道道路に面している関係上その地盤全体に右道路の高さに合わせて地盛りを行うこと自体は右土地の利用上きわめて自然なことであつて、右のように土地の利用上一般に合理性の認められるような態様での地盛りがされた以上、地盛りによつて形成された地盤面を基準として建築規制法規を適用すべきである。もつとも、第三ユニアスの場合、いつたん入れられた盛土の大部分は地階建築のため再び収去されており、地盛りは、それ自体が必要であつたというより、後記のように本件指導要綱の適用の回避等を狙つてされたものと見られなくもないが、地盛りそれ自体の態様が客観的に見て前記のように土地利用上合理性の認められるものである以上、これに伴う主観的意図のいかんを顧慮することなく、地盛りによつて形成された地盤面をもつて基準とすべきものと解することが、客観的、画一的な基準によるべき公法上の規制の性質からいつて適当であると考えられる。前記のような主観的事情は、公法上の規制への適合性の有無とは別個に、私法上の違法性そのものを判断するに際して必要に応じ考慮に入れれば足りると思われる。

ところで、建基法五六条の二第一項は「平均地盤面」から1.5メートル又は四メートルの高さの水平面における日影を問題にしているが、右の「平均地盤面」は、同条三項で隣地との高低差がある場合の一項の規定の適用緩和を定めているところから見て、当該建築物の敷地のそれを意味するものと解される。そして、前記地盛り後の地盤面を基準として、建基法の規定の定めるところに従いそれより四メートル高い水平面に本件(一)の建物の投ずる日影を見ると、<証拠>によれば、2.5時間以上の日影を生ずる範囲はすべて敷地の境界線から一〇メートル以内に収まるが、四時間以上の日影を生ずる範囲は、北側すなわち被控訴人今溝両名居宅の敷地において境界線から五メートルの線を超える部分があること、しかし、その超過分は、本件(一)の建物のうち、(イ)三階上端北東側の隅の点、(ロ)右(イ)点から三階北側上端の東西に走る稜線に沿つて二五センチメートル離れた点、(ハ)右(イ)点から建物の北東隅の縦の稜線に沿つて三〇センチメートル離れた点、(ニ)右(イ)点から三階東側上端の南北に走る稜線に沿つて一五センチメートル離れた点、以上の四点を結ぶ四面体の部分を削除することによつて消滅する程度のきわめて僅少なものであることが認められる。したがつて、本件(一)の建物は、ほぼ日影規制基準に適合するものということができる。

六控訴人のした地盛りの評価

控訴人が第三ユニアスの建築を開始するにあたつて本件(一)の土地に実質上余り意味のない地盛りをしたことは前記のとおりであり、右地盛りの態様からすると、これによつて日影規制の基準となる平均地盤面は四〇ないし五〇センチメートル位高くなつたものと認められるが、前記のような右土地の地形からすると、現実に地盛りがされると否とを問わず、水道道路の地盤面を基準として土地利用が行われることは当然予想されるところであり、社会的に是認されうるところでもあると考えられ、これによつて近隣住民が不当にその利益を侵害されるわけではないから、実質的に見ても、右地盛りをしたことについて控訴人が非難されるべきであるということはできない。なお、<証拠>によれば、控訴人が右地盛りを行つた理由の一つは、地上高一〇メートル以上の建物については武蔵野市宅地開発等に関する指導要綱すなわち本件指導要綱(昭和五三年一〇月に改正される以前のもの)の適用があり、建築につき付近住民の同意を得ることが要求されるなどの制約が課されるため、これを免れるという点にあつたことが窺われる。しかし、前記のような地盛りの態様からいつて、これを右指導要綱を潜脱するものとして非難すべきかどうか問題であるのみならず、右指導要綱は、それ自体単に行政指導の方針等を定めたもので法規たる性質を有するものではなく、内容的にも、その制定の意図に評価すべきものはあるにせよ、特に建築の可否を無条件に付近住民の同意にかからせる点で問題のあるものであつて、仮に控訴人の行為がこれを潜脱するものと評価されるとしても、そのことを控訴人の行為の私法上の違法性を肯定するための要素に数えるのは相当ではない。

以上によれば、違法性の判断にあたつて前記地盛りの事実を特に考慮する必要はないものというべきである。

七被控訴人らに対する日照等の阻害の違法性

以上判断したような諸点を考慮しつつ、さきに認定したような各被控訴人の日影の被害及び採光、通風の被害が一般に受忍限度の範囲内といえるかどうか、特にその被害のうち控訴人が建築した建物に起因するものをいかに評価すべきかを検討する。

まず、各被控訴人に共通の問題として、本件において日影被害の程度をどのような点に着眼して把握するのが適当かを考えると、前記のとおり本件(一)の土地の周辺地域は近隣商業地域に属し、その実際の状況も右地域指定に適合するものであるということができるから、一般に一階開口部での日照享受は期待すべきではないと考えるのが相当である。また、日影に対する受忍限度のいかんは、基本的には、それぞれの土地でその占有権原に基づいて生活を営む者同士の間で、社会生活上どの程度の不利益を甘受すべきかの問題であるから、当事者の一方について存する個別的な特殊事情は、権利濫用、信義則違反等の法理の適用が問題になる場合でない限り、原則として考慮すべきではない。したがって、本件では、被控訴人ら居宅の二階の開口部における日影の程度が違法性判断の基礎となるべき重要な指標である。

以下においては、まず本件(一)の建物による日照等の阻害の違法性について検討する(仮にこれが違法性を帯びないとすれば、それより程度・態様において重大であることのない現在の第三ユニアスによる日照等の阻害が違法性を帯びないことは当然である。)。

(一)  被控訴人今溝両名方

本件(一)の建物の存在を前提とした複合日影の結果として、右両名の居宅の二階開口部において現実に享受する冬至の日照の状況は、前記のとおり午前一〇時ごろから午後一時ごろまでの約三時間は開口部の過半に日照があるというものであり、また、その中で本件(一)の建物によつて生ずる日影は、さきに認定したとおり午後一時ごろから午後四時まで(本件(一)の建物のみによつて生ずる日影もほぼ同様)である。しかしながら、右複合日影の状況からすると、右開口部に生ずる日影のうちどれだけが本件(一)の建物によつて生じているかを問うまでもなく、右居宅の受ける日影は一般に受忍すべき限度内のものというべきである。<証拠>によれば、被控訴人今溝両名は二階の大部分を貸間として第三者に使用させており、また被控訴人喜久司夫婦は老齢で二階を使用するのに不便を感ずるような状態にあることが認められるけれども、前記のようにそのような個別的事情に基づいて控訴人のする建築に制約を加えることは、事柄の性質上困難であるといわなければならない。

前記のような被控訴人今溝両名の居宅と控訴人の建築した各建物の位置関係から見て、右各建物により右被控訴人ら居宅に違法な採光、通風の阻害が生じているとは認め難い。

(二)  被控訴人伊藤博則方

右被控訴人の居宅の二階開口部における冬至の日照は、前記のとおり南側と東側とを合わせても約一時間にすぎず、日影時間は約七時間に及んでいる。このような日影の状態自体は、近隣商業地域という条件を考慮に入れても、通常受忍すべき程度を超えているものというべきであろう。

しかし、右のような被害が生じている原因を検討すると、右被控訴人の居宅は前記のとおり本件(一)の土地の北西から約2.1メートル離れた所に建つており、その主要な開口部は南側と東側であるが、<証拠>によれば、右居宅は被控訴人伊藤タツエの居宅とともに一棟をなす建物の南側約五分の二に当たり、その敷地にほぼ一杯に建つていて、南隣りの原方居宅敷地との境界から前記のとおり六〇ないし七〇センチメートル、原方居宅からは約1.5メートル離れているのみであり、また、右居宅の南側の開口部及び北側の開口部は、本件(一)の土地と被控訴人伊藤博則居宅敷地との間に私道が存するにもかかわらず、いずれも本件(一)の土地からの距離が五メートルの範囲内にその殆ど全部がおさまるような位置にあることが認められる。したがって、本件(一)の建物の右居宅に対する日影が日影規制に抵触しないことは前記のとおりであるばかりでなく、前出甲第二五号証によれば右居宅の敷地は被控訴人今溝両名居宅の敷地と同様本件(一)の土地より七、八十センチメートル低いと認められるので、この点を考慮し、右の低い地盤面を基準として試みに日影規制の基準を当てはめてみても、被控訴人伊藤博則の居宅に対する本件(一)の建物の日影が規制を上回ることはない(このことは<証拠>によつて明示されている。)。右によつて明らかなように、右被控訴人の居宅が前記のような長時間の日影を受けるのは、右居宅が敷地一杯に建つた建物の南寄りの部分で南側及び南東側の隣地にきわめて近接しているという立地条件によるところが大であり、このような条件の下ではもともと良好な日照環境を確保するのに相当の困難が伴うのはやむを得ないものというべきである。前記のとおり、現在の第三ユニアスの日影の場合でも、本件(一)の建物の日影に比べて約一時間多く日照を確保しうるにとどまることは、このことを物語つている。もつとも、右のような日照環境の下だからこそ右の一時間の日照が貴重だともいえようが、照阻害が基本的に日影を受ける側の前記のような立地条件に由来するところ大であり、他方、日影そのものが日影規制に十分に適合する態様のものである場合、日照確保のため日影を生じさせる側に譲歩を強いることが衡平の観念に適うとは考え難い。

以上検討したところからすると、被控訴人伊藤博則方の複合日影による現実の日照阻害の程度が前記のとおりであり、また、前認定のとおり、右日影の中で本件(一)の建物によつて生ずるものは二階開口部で午前九時過ぎから午後一時ごろまでの三時間強(専ら本件(一)の建物によつて日照が阻害されているのは午前九時過ぎから正午過ぎまで)に及んでいるにせよ、このことから直ちに右建物の建築を違法とすることはできない。

また、前記のような被控訴人伊藤博則の居宅と控訴人の建築した各建物の位置関係から見て、右各建物により右居宅に違法な採光、通風の阻害が生じているとは認め難い。

(三)  被控訴人伊藤タツエ方

前記のとおり、本件(一)の建物によつて右被控訴人居宅の二階開口部に生ずる日影は殆ど皆無であるから、これについて違法をいう余地のないことは明らかである。

採光、通風の違法な阻害を認め難いことは、被控訴人伊藤博則方と同様である。

(四)  被控訴人坂本、同浅倉方

前記のとおり、下方荘の北寄りの被控訴人坂本、同浅倉の居室のある部分は正午前後に一時間程度の日照が得られるのみであるが、このような日照阻害が生ずるのは、何よりも右居室が下方荘の中で前記のような位置を占め、南側に開口部を有しないという事実に由来するものであることは明らかである。もつとも、その西方にある第三ユニアスが東方にある大洋ビルとともに右居室の日照を阻み、また、ある程度通風、採光の妨げになつていることも確かであるが、右第三ユニアスによる日照、通風、採光の阻害は、下方荘と第三ユニアスの建物が双方の敷地の境界線からそれぞれ四〇センチメートル前後しか離れていないことの結果として生じているのであり、しかもこのように建物同士が接近して建つている状態が水道道路に面している建物については格別異例のものでないことは、<証拠>によつて明らかである。そうすると、右日照、通風、採光の阻害は、基本的には右被控訴人らの居室の立地条件そのものに基づくものであり、右居室が前記のような日照、通風、採光しか得られないのはやむを得ないものというべきである。そのうえ、第三ユニアスによつて日照、通風、採光を妨げられる右居室の西側開口部は、前記のようにもともと小さく、しかも目隠しのためにその大部分をふさがれているのであるから、右開口部からの日照、通風、採光を阻害されることによつて右被控訴人らの被る被害は比較的小さいといわなければならず、右日照、通風、採光の阻害を違法であるとは到底いうことができない。

八圧迫感ないし天空享受の阻害

1圧迫感

建築物から近隣の住民の受ける圧迫感が日影、採光、通風の阻害とは別個に保護の対象となるべきものかどうかについては、右の圧迫感がその内容としていかなるものを含むのか明確でなく、多分にこれを訴える者と建築物との間に存する心理的・主観的関係によつて左右されるような因子をも含めて論じられているように見受けられるばかりでなく、日照阻害がプライバシー侵害等の建築物がもたらす種々の環境の劣悪化に対する不快感とは別個に単に建築物がそこに存在することによるいわば客観的な意味での圧迫感というものがあること自体は認められるにせよ、これをどのように計量すべきか、またこれに対しどのような要件の下に保護を与えるのが適当かを判断するのに十分な客観的資料は現在のところ乏しい。<証拠>によれば、形態率という指標によつて圧迫感を数量化する試みも一部でされていることが認められるが、その内容は詳らかではなく、もとよりそこで圧迫感を生ずるとされた数値が私法上の保護に値する利益の程度とどのような関係に立つのかも不明である。

現実の問題として、当審における検証の結果によれば、現在の第三ユニアスが(したがって本件(一)の建物も)被控訴人今溝両名の居宅の南側開口部からの景観においてある程度客観的な意味での圧迫感を与える存在であることは認められなくはないが、右圧迫感が、一般に私法上の保護の対象としての圧迫感について存する前記のような不明確な要素にもかかわらず、右建築を違法と断定するに足りるほどにそれ自体として顕著なものであるということはできない。第三ユニアスと被控訴人伊藤博則、同伊藤タツエの居宅との間では、建物の位置関係からいつて、右被控訴人らの居宅の受ける圧迫感は特に問題にするほどのものがあるとは考えられない。また、第三ユニアスと下方荘の被控訴人坂本、同浅倉の居室との間では、前記のように両建物がきわめて接近して建っている結果、右各居室の西側開口部から第三ユニアスを見た場合の圧迫感は大であると一応いえるが、これをもつて第三ユニアスの建築を違法とすべきでないことは、さきに右開口部における日照、採光等の阻害について述べたところと同様である。

次に第五ユニアスについてみると、<証拠>によれば、第五ユニアスは被控訴人伊藤博則、同伊藤タツエ方の西側開口部に近接して建つており、圧迫感の点では右各開口部に相当の影響を及ぼすものと認められるが、前記のように右各開口部は右各居宅の主要開口部ではないばかりでなく、前出乙第七三号証によれば、第五ユニアスや右被控訴人ら居宅のある末広通り南側沿いでは各建物は隣家との間に殆ど間隔を置かずに建てられるのがむしろ通常であることが認められるから、右圧迫感の故に第五ユニアスの建築を違法であるということはできない。

次に山基ビルについては、その被控訴人らの居宅との位置関係からいつて、被控訴人ら居宅に対し不当な圧迫感を及ぼすものとは考えられない(第五ユニアスと被控訴人伊藤博則、同伊藤タツエ以外の被控訴人らとの関係についても同様である。)。

2天空享受の阻害

次に、実質的には右の客観的な意味での圧迫感と多分に重なり合う問題と思われるが、天空に対する視野の享受という観点から見ると、被控訴人今溝両名居宅南側のように、住居の主要な開口部が存する側において、右開口部とその敷地の境界線との間にある程度の距離をとつて居住者が右開口部の天空に対する視野の保全を図つている場合、これに対して日照、採光の保護とは別にある程度の保護を考える余地はあるかも知れない。しかし、これを具体的にどのような一般的基準に基づいて保護すべきかについては、これを明らかにする資料がない。そこで、ここでも一般的基準の定立をひとまず断念し、本件の具体的事実関係の下で考察することとするが、本件のような近隣商業地域においては、日照の保護を前記のように二階開口部を基準として考えるべきであるのと同様、天空の享受も二階開口部を基準として考えるのが相当である。そして、<証拠>によれば、被控訴人今溝両名居宅の南側二階開口部の地上四メートルの点から第三ユニアスのある南側の天空を見た場合、天空を望むことのできる視角(開口部に立てた垂線と右垂線上四メートルの高さの点から第三ユニアスの建物の上端に引いた線とが作る角度。右乙第三八号証中の用語によれば「可視天空角」)は本件(一)の建物の場合五四度一〇分、現在の第三ユニアスの場合六一度一〇分前後であることが認められる。この事実に加えて、当審における検証の結果をも参酌すると、第三ユニアスによつて被控訴人今溝両名居宅にもたらされる天空享受の阻害は、現在の第三ユニアスの場合はもとより、本件(一)の建物の場合にも、その建築を違法たらしめるようなものであるとはいい難い。また、そのほかの被控訴人らの居宅についても、第三ユニアスによる天空享受の阻害が違法であるとはいえない。その理由は、これら被控訴人らの受ける圧迫感について前述したところと同様である。

第五ユニアス及び山基ビルについても、違法な天空阻害は生じていないものというべきである。その理由は右各建築物による圧迫感について前述したところと同様である。

九プライバシーの侵害

1第三ユニアス

被控訴人らは、現在の第三ユニアスの建築によりその居宅内を覗き見され、プライバシーを侵害される旨主張する。

<証拠>によれば、第三ユニアスの本来の設計では一階から三階までの東側、北側、西側の各開口部の窓ガラスは半透明の型ガラスを用い、また、北側三階の開口部の全部及び北側一、二階の開口部の一部(バルコニー部分)には不透明のフレキシブル・ボードによる高さ約八五センチメートルの目隠しを兼ねた手摺りを設けることになつており、右手摺りは最初の設計では縦格子であつたが被控訴人今溝両名方のプライバシーを考慮して右のように変更したものであつたこと、昭和五一年一一月二四日、被控訴人らの申請により第三ユニアスの一、二階北側等に目隠しの設置を命ずる仮処分命令が発せられ、その趣旨に従つて控訴人は前記手摺り(但し、鉄板製に改めたもの)の上に約三〇センチメートルの高さの型ガラスによる目隠しをつけ足したほか北側一、二階のそのほかの開口部にもアルミニウム製の目隠しが設置されたこと、但し、その後においても北側各開口部の方には高さ三〇センチメートル前後の目隠しで蔽われない部分があるなど、第三ユニアスの屋内又はバルコニーから被控訴人今溝両名方の屋内を望見することが全くできないわけではないことが認められる。通常の場合、右仮処分命令後にされた目隠しの設置は、仮処分の執行によるものでなくても、全く任意にされたものと見ることはできず、本案たる本訴訟においてはこれが設置されたことを考慮することなく被控訴人らのプライバシー侵害を理由とする請求の当否を判断すべきであるが、本訴訟において控訴人は、本訴訟の結果いかんにかかわりなく右仮処分後に設置された目隠しを撤去する意思を有しないことを明示しており、しかも、控訴人が本訴訟において排斥を求めている被控訴人らの目隠し設置請求の具体的内容は、右控訴人の設置にかかるものとは設置すべき範囲や仕様において異なる目隠しの設置を求めるものであることが明らかである。このような場合、右控訴人の設置にかかる目隠しは任意に設置されたものと同視するのが相当であるから、右目隠しが設置されていることを前提として被控訴人らの請求の当否を判断する。

被控訴人今溝両名の居宅は、その南側にある主要開口部が第三ユニアスに面していて、その一ないし三階(現在の第三ユニアスについては一、二階)の北側開口部から自らの屋内を観望される位置にあり、被控訴人伊藤博則の居宅の南側及び東側の主要開口部についても事情は同様である。そして、<証拠>によれば第三ユニアス北側から水平距離は被控訴人今溝両名方南側の最も近い開口部まで約6.8メートル、被控訴人伊藤博則方の最も近い開口部まで約3.4メートルである。右のような位置関係及び右被控訴人らの建物が住居であることに照らすと、第三ユニアスの北側開口部には前記型ガラスのガラス窓のほか右観望を遮るような何らかの設備が設けられてしかるべきである。しかし、前記のような目隠しが施された結果として、第三ユニアス一、二階の居住者が特に窓際に立ち、あるいはバルコニーに出て前記被控訴人ら方を覗き込んだ場合は格別、居室内で通常起居してある状態では前記被控訴人らの居宅内が望見されることはないのであり、このことと本件(一)の土地の周辺地域の前記のような地域性とを前提として前記被控訴人らのプライバシーの保護と第三ユニアスにおける居住条件の確保という二つの要請の均衡調和を考えるならば、控訴人側のとるべき措置としては右の目隠しをすることをもつて足りるものと解するのが相当である。被控訴人らは、武蔵野市においては周辺建物よりも高い建物を建てる場合には目隠しを設置する慣習がある旨主張するが、当審における検証の結果によつても、少なくとも右において相当と認めた程度のもの以上の目隠しを設置する慣習があるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。なお、被控訴人伊藤博則方の屋内は、第三ユニアス西側一、二階の一番北寄りの窓からも望見されうるが、右窓から見て、窓の正面の方向と右側にある右被控訴人方の方向とはかなり異なつているうえ、<証拠>によれば、これらの窓はいずれもその右側の壁面よりも引込んでいることが認められるので、これらの窓からの観望によつて右被控訴人のプライバシーが違法に侵害されているものということはできない。

被控訴人伊藤タツエ方東側開口部は、<証拠>によれば第三ユニアスから約九メートル離れており、そのことと右開口部の向いている方角からいつて、第三ユニアスから屋内を望見される程度は大きくないと認められるので、これについて目隠しによるプライバシーの保護を図るべき必要があるとはいい難い。

下方荘については、前記のような被控訴人坂本方、被控訴人浅倉方の西側開口部の状況及び<証拠>によれば第三ユニアスの一、二階と下方荘の一、二階とではその床面の高さにかなりの相違があることからいつて、右被控訴人ら居室につき違法なプライバシーの侵害が生じているものとは認められない。

2第五ユニアス及び山基ビル

第五ユニアスは前記のように被控訴人伊藤タツエ、同伊藤博則の居宅に近接して建つているが、これによつて右被控訴人らにつき違法なプライバシーの侵害が生じていることを認めるに足りる証拠はない。その余の被控訴人らの居宅については、その第五ユニアスとの位置関係からいつて、プライバシーの侵害があるとは認め難い。山基ビルと各被控訴人居宅との間についても、同様である。

一〇耐震構造基準の強化と本件建物部分建築の可否

控訴人は、本件建物部分の建築は耐震構造に関する建基法施行令の改正により許されなくなつた旨主張するが、右改正にかかる耐震構造の基準が直接近隣住民の利益の保護を図る趣旨のもので、これに違反する建築に対し近隣住民はその差止めを求めることができ、かつ、本件建物部分の建築につき右新基準の適用があるものと解しうるとしても、現在の第三ユニアスの建築が右基準に抵触し本件建物部分の建築が許されないものであるかどうかについては、当審証人伊藤隆造の証言をもつてしてもこれを認めるに十分ではなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、右耐震構造基準との関係から右建築を違法であるということはできない。

二被害の総合的な評価等について

被控訴人らは、控訴人の第三ユニアス、第五ユニアス、山基ビルの建築による相乗的な影響に着目し、右建築行為を総合的に評価すべきだと主張するが、日影については複合日影を考慮してなおかつこれを違法とすることができないこと前記のとおりであり、日影以外の各種被害については、右各建物によつて生ずるものを総合して考えても、これを違法と評価することはできない。種類の異なる被害を総合的に考察した場合にも同様である。

なお、被控訴人らは、控訴人が第三ユニアスや山基ビルの建築を開始するに際して本件指導要綱に基づいて被控訴人らの同意及び武蔵野市の承認を得なかつたことや容積率に関する建基法五二条二項等の規定を改正する法律が公布されたのち施行される前に山基ビルの建築確認を得たことをもつて控訴人のした建築を違法たらしめる要因の一つとするが、日照阻害等の違法性の判断にあたつては建築物の位置、形状、構造等と被害の内容を主眼として考えるべきであつて、建築の過程における経緯を重視することは事柄の性質上相当ではないのみならず、本件指導要綱が付近住民の同意を得ること等を要求していることが必ずしも妥当といえないことは前記のとおりである。更に、山基ビルについては、これによる被控訴人らに対する日照等の阻害は前記のとおり軽微である点からいつても、その建築に至る過程を違法性を肯定するための積極的要素として特に考慮するのは相当ではない。

また、被控訴人らは控訴人の建築行為は権利の濫用であると主張するが、右主張は実質的に以上判断した違法性の問題と別個の内容のものとは認められないから、右主張も理由がない。

三結論

以上認定判断したところによれば、被控訴人らの本訴建築差止め、損害賠償、目隠し設置の各請求は、当審において附帯控訴により新たに追加されたものを含め、いずれも理由がないものというべきである。よつて、原判決中右各請求の一部を認容した部分を取り消し、右各請求を棄却するとともに被控訴人らの附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する

(鈴木重信 加茂紀久男 梶村太市)

別紙1の(1)<省略>

別紙1の(2)<省略>

別紙2<省略>

別紙3<省略>

別紙5<省略>

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